銀座天丼恋歌3<天國>

食べ歩き ,

「天國」は、連日老若男女で大盛況。その活気に食欲が煽られる。

天丼は、豊富な種類が用意され、さあ今日はどれを食べようかと、想いが千々に乱れる。

お昼だけの天丼千円(2016年、2025年は1500円)に始まり、海老二尾、キス、イカのかき揚げ、野菜二種類の「A丼」1,575円(同2530円)。キスの代わりに穴子が入る、「B丼」2265円(同3190円)。。海老二尾、キス、文甲イカ、大エビの「C丼」2940(同3740円)。丼や、季節のかき揚げ丼(同4510円)など、嬉しいことに8種類の天丼が待ち構えている。

いずれも蓋付き、錦手か染付の丼に、治められる。

池波正太郎がよく頼んだのはB丼で、『(少し腹がくちいな)と、おもっても、ここの天丼だと、すっと腹の中へおさまってしまう』(散歩の途中で何か食べたくなって)と、書いている。

彼は酒を飲みながら、ゆっくりと天丼を食べたそうだ。

海老二尾は、昔ながらのつまみ揚げ。海老の尻尾をつまんで並べ、つないだまま揚げるやり方で、長年修行をしないと修得できないという。

また「今月のおすすめ天丼」二千百円というのも見逃せない。

冬にいただいたときは、エビ、イカ、百合根のかき揚げで、ほくほくした百合根の甘みが、エビやイカに仲良く寄り添っていた。

春は、エビ、筍、桜海老のかき揚げが登場する予定で、香りと様々な食感が織りなす天ぷらが、浮き浮きとした気分を呼ぶに違いない。

「天國」の天丼を食べていて、ふと、今は無き「津ゆ木」(暖簾分けした店が天童にあるらしい)という店を思い出した。

八丁目の路地にあった、海老天丼一本の店で、カウンターに座ると、黙っても海老天丼が出てくる。

鉄釜で炊いた美味しいご飯の上に、カリッと揚げた三連つまみ揚げの海老天とイカ天をのせ、辛めのつゆをかけた天丼で、客は皆うまそうに黙々と食べていた。

今回改めて聞けば、この店は、「天國」の創業者露木國松氏の三男が始めた店だそうだという。

当時は(1984年)600円。

庶民にささやかな幸せを与えていた天丼は、天國の精神を受け継いでいたからこそ、おいしかったのである。

「天國」の丼タレは、創業来継ぎ足しいるそうで、カラっと揚がった天ぷらと辛めの丼タレの味が、実に小気味よい。

そんなところを池波正太郎も愛したのだろうか。

幅広い天丼の揃えがあるので、ご家族で利用するのもお奨めである。