金沢前の天ぷら

食べ歩き ,

的場さんは縁あって、金沢に移り、店を始められた。
出身地とも修行先とも違う土地である。
「めくみ」さんに惚れ込み、毎月通ううちに石川の食材に惚れ込んでいったのだという。
その惚れた、地の食材を天ぷらにする。
だからその日は、16種類の天ぷらが出されたが、なんと海老が出ない。
さらには、キスもイカも、出なかった。
その代わり、この地にこなければ出会えぬ天ぷらがある。
一つは能登町のサクラマスである。
の滋賀の実家になっている花山椒と山椒の若葉を醤油漬けにし、添えて出された。
白身魚とも赤身魚とも違う、オレンジ色の味である。
加熱されて膨らんだ旨みが、なんとも色っぽい。
続いては五箇山のウド である。
長めに揚げたウドは、ひりっと抜ける香りで、根本はホクホクとしてほのかに甘い。
最も面白かったのは、ハタハタの天ぷらだろう。
噛み締めると、コクを感じる。
濃い旨みがひっそりと奥にある。
さしずめ山手育ちのメゴチといった気配があった。