野菜のおいしいレストラン
二十一世紀のレストランのテーマは、「野菜」といっても過言でないほど、野菜を意識したレストランが増えている。そこで野菜をこよなく愛する料理人たちのレストランをご紹介。
原宿・月心居
原宿の裏通りにて、ひっそりと看板を掲げる精進料理の店。引き戸を開ければ、香の炊かれた静泌な空間。掃き清められ、楚々と季節の木の花が生けられた店内は、凛として、心が穏やかになる。座敷とカウンター席。
主は、月心寺の村瀬明道尼に師事、十二年前に開店。毎日二〜三十種の旬の野菜、茸、穀物類を駆使した料理が出される。
まず向付に月心寺譲りの胡麻豆腐に続いて、むかご、グリンピース、松茸など季節のものを炊き込んだご飯、赤だしの汁が出される。胡麻豆腐はほのかに甘く、舌にからみつきながら、体の汚れを落としていくかの如し。炊き込みご飯も、食べ進めさせるぎりぎりの淡味。続いて椀もの、和えもの、炊き合わせ、煮しめと続き、最後はおこげごはんと漬け物で締めくくる(揚げ物や炒めものが入る日もあり)。
揚げた千切りごぼうと焼きナス、本しめじの椀。筍、菜の花、わらび、蓬餅の椀。豆腐の甘みだけで和えた、林檎や柿、ゆり根の白和え。姫皮のまま炊き、客が歯でしごいて食べる筍。厚く、歯を入れることが楽しめる酢蓮。歯触りの妙が味わえる、松茸、水菜、さつまいもの炒め合わせ。最近の傑作、オリーブオイルと有機マーガリンで炒めた茹で筍のわらびソースかけなど、変幻自在ながら、作為のない、野菜の力を素直に引き出した料理がいただける。
精進といえどコースはかなりの量。大食漢でもかなりの満腹になるハズ。食の細い人は、残した料理のお持ち帰りもあり。「エステより月心居」とご主人が冗談でいうように、血と肌が浄化する料理を求めて女性客多し。コース一万円〜。
青山・ラブランシュ
この店で、まず野菜の素晴らしさを味わうなら、前菜の「こだわり野菜のサラダ仕立て」を是非。例えば生の青大根、ミニ人参、塩トマト、庚申大根、黒大根、ラディッシュ、茹でた蕪の葉、黄人参、根つきほうれん草、大根、カブ、オリーブオイルで炒め揚げたズッキーニ、黄ピーマン、グリルした赤ピーマンなどを、それぞれに塩胡椒、オリーブオイルで和え、二十年もののシェリーやオリーブオイルを合わせたウィネグレットソースを、少量かけ回した皿。さながら畑の真ん中に立ち、野菜をかじっているかのようにみずみずしく、土の香り、暖かみ、甘み、苦味が生き生きと口の中で弾ける。契約農家との長年の供給による野菜の素晴らしさもさることながら、蕪や大根の葉を茹でるときは、身から切り離さず、身をつかんだまま茹でるなどといった、野菜に心底敬意を払う田代和久シェフの性根が生きた料理である。
その他、キャベツの甘みが魚を引き立てる、マナガツオやヤガラのキャベツソース。口当たりが柔らかくなるよう、包丁で泡が出るまで叩きに叩いたトマトをソースにした、春のスペシャリテ「ヤリイカのクールジェット詰めポワレ トマトソース ほうれん草添え」。ホウボウ、甘い大根おろし、オリーブオイルが見事に合体した、冬の「ホウボウのカルパッチョ」。極限まで引き出された甘みが主役のフォアグラさえ食ってしまう、夏の「冷たいタマネギのポタージュ」。香りで魚を引き立てる、驚愕の「ハタの茄子ソース」、相性のよさに驚く、「鰯とジャガイモ重ね焼き」や、「鰯と筍のグリル」などなど、魚を高め合う野菜の力に瞠目するは必至。デジュネ四千八百円〜、ディナー 円。
駒沢・ラ・ターブル・ド・コンマ
十年以上前より、野菜を中心とした(主菜は魚)コースを取り入れるなど、小峰敏弘シェフは、積極的に野菜の力を高めてきた。
野菜コースは七千円。例えば今春のコースは、ニンジン名自然な甘みとコンソメの滋味が拮抗して互いを高め合う「ニンジンのムース コンソメジュレ」に始まり、焼き目を付けたホワイトアスパラガスの幼い甘みにモリーユ茸の香りをまとわせた皿。帆立と熊本産筍のグリルに煮詰めたジュ・ド・コライユ添え、緻密で詰まった身を持つ平目のグリルへと続く。春の香りが口の中で溌剌と開き、野菜の力が鮮明に伝わる。
また、春キャベツと鶉の煮込みに生の鶉を合わせ、アスパラ人参を敷いたタンバルに詰めて蒸した、「鶉のシャルトリューズ、春野菜添え」や、「イトヨリの海草蒸しと辛子菜のラビオリ」、甘みの純度を高めたタマネギのピュレが肉をもり立てる「鴨肉の赤ワインソース」など、野菜の力強さと香りが魚や肉と肩を並べた、健やかな料理が心を打つ。
夏の「冷たいとうもろこしのスープ」、春の「グリンピースのスープ」、冬の煮含ませたカブに白トリュフを添えたアミューズなど野菜単体の料理の数々も、その香りの高さに陶然となるは必至。
六本木・てんぷら味覚
六本木の裏路地に店を出す、庶民的な天ぷら屋。夜のコースは五千二百五十円からだが、このコースを野菜中心でお願いするのがおすすめ。揚げられるのはほとんどがご主人自ら耕す、相模川の自家農園によるもの。揚げながら「これうちの畑の奴」。「これはうちのじゃないけど、いいよ」と説明してくれるのも微笑ましい。なによりもまず驚かされるのは、天つゆに添えられる大根おろしの、強い甘みと、きめの細かい食感。
野菜コースは魚類も入れてなんと二十数種。内野菜十七種ほど。いずれも揚げたてを噛んだ瞬間に爆発する香りに顔が崩れる。特に自家農園の数々は他店より数段香り高し。聖護院大根、ブロッコリー、山うど、山うどの根、オレンジブーケ、赤ジャガイモ、サトイモ、タマネギ、ナスなどがおすすめ。六月の時期なら、ネギの根!赤タマネギがおすすめ。スペシャリテのイモブラ(サツマイモを揚げて、砂糖とブンデーをかけたもの)、ピーマンの牡蠣詰めもおすすめ。沢庵も確かな歯応えで、ひねた主張がしっかりとあってうまし。
表参道・GOKAKU
三宿にて、すぐれた野菜料理を出す店として人気の高かった同店が、昨年末南青山に進出。コースは三宿時代と変わらず旬の野菜を中心とした定食。
基本のコース五千五百円円は、小松菜、三つ葉、かき菜などによる青菜おひたし、インゲン胡麻和え、山菜ねぎぬた、明日葉おひたし、蓮根胡麻あえ、小松菜、えのきのお浸し、そばの実、下仁田ネギのヌタ、菜の花辛子和え、胡麻豆腐、といった日替りで五品揃えられた野菜小鉢より三皿、ソラマメすり流し、豆苗炒め、水ナスとトマト、ズッキーニフリッター、小芋、人参、蓮などの根菜の煮物冷製のっぺ風、 かぼちゃポタージュなど、日替わりで四種類用意される一ノ皿より二種類。庚申大根、人参、黄人参、蕪などの生野菜オリーブと塩がけ、カボチャ、人参、ブロッコリー、カリフラワー、アスパラガス、キャベツ、ヤングコーン、インゲンなど五〜六種類の野菜による旬の蒸し野菜、焼きアスパラガスと、ソラマメと新じゃがいもの揚げ物、春キャベツとアサリの酒蒸し、ゆり根饅頭、有機野菜と鳥の鍋、ゆり根と白身魚のかぶら蒸し、、そばつくねと焼きネギの椀など、日替わりで三品用意される二ノ皿より一品、鯛おじや、めざしと白飯、豆穀ごはん、鯛のアラのだしで炊いて、芹を散らした、香り野菜おじやなど、「しまい」と称された料理から一品選ぶ仕組み。これに魚の刺身の小鉢を加えると、六千円。野菜はいずれも、大地の力強さと太陽の香りが漂い、火の通しも歯触りを生かして精妙。食べ終わると体が清々しくなる料理である。
昼は小鉢三品に日替わりの小さなおかずか小鉢五品、減農薬釜炊きごはん、味噌汁、お新香、もで千三百六十円、それに二の皿から一品選ぶ千八百九十円の昼定食あり。都会に住むものにとっては、実に貴重かつお値打ちの定食である。