きっと仲むつまじいのだろうなあ。
水道橋から歩いて五分。路地に佇む「とんがらし」を切り盛る、老夫婦のやり取りを聞いていると、微笑ましくなる。
「盛り合わせ一つです」。
注文を通す奥さんの、温和なトーンが店内に響けば、「はい」っと、ご主人の明るく優しい声が応える。
天ぷらが揚げる頃合になると、「野菜天いきます」と、ご主人さんが声かけ、それに合わせて、奥さんがそばを温め、ご飯を盛る。
連係プレーは乱れることなく、最上のタイミングで、天丼や天ぷらそばが完成する。
そして、「おまちどおさまでした」という、奥さんの言葉と共に手渡される。
路地には人通りが少ないが、客足は途切れることが無い。
五十代後半の夫婦は、仲良く天丼をつついている。
隣の推定25歳サラリーマンは、iphoneで料理の写真を撮ってから、メールを見ながら天丼セットを食べ始めた。
黒のノースリーブTシャツ、黒ジーパンの長髪ポニーテール男子学生は、なす天そばを、わき目も振らずに食べている。
ボクが選んだのは、海老天が4匹,茄子が半本分、いか天が一本入った「盛り合わせ」五百五十円。
揚げ立てで、カリッと音が響く天ぷらをかじりながら、そばをすする。
そばもつゆも上出来。食べていると嬉しくなっちゃうそばである。
そばもうどんもきしめんもあるが、どうやら天丼比率が高いらしく、推定五十七歳建築現場系男性も、推定三十五歳、短パン、ポロシャツ、ナイキスニーカー、職業不明男子も天丼を掻き込んでいた。
「冷やしきつねうどん」という声が聞こえて振り返ると、70代おばあちゃんと目が合い、にっこりとされた。
かように店は忙しい。しかしご主人はペースを乱すことなく淡々と天ぷらを揚げている。
だから五分は待つ。
しかし誰も、急ぐ様子は無く、いらいらすることもない。
「いか天いくよ」と、ご主人の声が通った。
その声には、心底仕事を愛しているんだという、情感がこもっている。
だから客は、誰も待つことをいとわない。
今では別の経営者になっています
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