銀座 赤坂璃宮

日記 ,

蛇、兎、鮑、鼈。

先週、某業界経営者忘年会をプロデュース。なぁんていかにも偉そうだが、まあ店を押さえ、メニューをシェフや支配人と相談して決めただけである。

つまり店の通常メニューには無い、自分が食べたいものを組み立てたというわけである。今回で四年目だ。

場所は銀座、「赤坂離宮」。というわけで、これから読まれる方は、「いい加減にしろ」、「俺にも食わせろ」、「自慢するんじゃねぇ」と、言われる、頭にくる菜単となった。

前菜は、離宮得意の皮付きばら肉の焼き物と、しっとりとして優しい甘みが広がる豚頬肉とフォアグラの焼き物。石垣のハタと黄韮の炒めに続いて、本日の第一の山場登場。

五種類の蛇とふかひれのスープである。

ガラガラ、キングコブラ、海蛇などが一堂に会しているといっても、見た目はわからない。細切りになっていて、食べれば肉の薄い穴子のようである。そのもの自体の味より、滋養がにじみ出たスープが凄い。

以前も食べたが、今回はかなりおへびさんを張り込んだようで、一口すするたびに滋養が体中を駆け巡る。「おらおらおらぁ燃えんかい」と、食べたそばから、体が火照ってくる。

目は見開き、心拍数は上昇し、舌は上品ながら深い奥味に引き込まれて、半失神である。

そこへ追い討ちをかけるように乳鳩の焼き物が運ばれ、さらに打ちのめすべく、二つの土鍋が現れた。ああ、穴ウサギだ、大間の鮑だぁ。

次に登場せしは、鮑君とうさぎ君。
あわびは、90%は香港に送られるという大間産で、香港に旅立つ前にインターセプトし、干し上げた小ぶりな奴。土鍋でぐつぐつと煮え立っております。
うさぎは、秋田で元気よく跳ね回っていた、体重十キロという大ウサギ。こちらも土鍋でいい具合に煮あがっております。
鮑は干し具合が程よく、身に歯がすっと入っていくと、海の豊饒ががゆるゆると流れ出る。
大ウサギは、大といえど繊細な肉質で、口いっぱいに広がる淡い滋味がなんとも優しい。
27年物のまろやかな紹興酒と口の中で手を結び、ああ幸せ(いい加減にしろってか)。
おおついに来ましたクライマックス。本日二つ目のスープ(今回は味の対照的な二つのスープをコースに盛り込んだことがコンセプトなのです。えへん。)を満々とたたえた壷が現れました。

壷のふたを取ったとたん、うっとりとする芳香が立ち昇った。鼈甲色に染まった透明なスープが運ばれる。
「ああっ」。
一口スープをすすった一同が、声にならないため息をもらした。
ほら貝、魚の浮き袋、長崎産天然スッポン、ワイサン(山牛蒡)、クコの実、棗などから湧き出した滋養が、穏やかに満ちている。
コラーゲンが唇にまとわり、どれ一つ突出することない丸いうまみが、舌に広がってのどに落ち、体に染み渡っていく。
体中の細胞に活力が漲っていくようなのに、気分は安寧へと向かっていく。
皆、放心したような、それでいて幸せに満ちた表情で食べ終えると、互いの顔を見合って微笑んだ。  余韻に浸っていると、鮑の戻し汁と干し蛸を炒めた炒飯が出される。米がうまみを吸いながらもさらりと仕上がっている。タイ米ゴールデンフェニックスの面目躍如だ。
デザートは蕪のような食感に煮あがった洋梨と貝母、白きくらげ。