やはりここの鰻重が、舌に馴染む。
しみじみと思った。
八重洲「鰻はし本」である。
長い間本店を改築して、仮店舗でやられていたが、ようやく新店舗が出来上がった。
本営業は明日からだが、その前にプレオープンでテストをするという。
それは行かなきゃね。
輪島に新注したという、輝きが新しい朱塗りの重に入って鰻重は現れた。
蓋を開ける。
一点焦げもなき艶やかなお姿が「さあ早く食べて」と、手招きする。
食べれば、皮下のコラーゲンが見事に焼き切られていて、ふんわりと舌に着地する。
「いいねえ、こいつは」。
いく度となく食べているのに、初めていただくような感動が湧き上がる
今日の鰻は宮崎の和匠だという。
橋本さんは、養鰻場を問屋に指定して仕入れられている。
そんな鰻屋さんは、滅多にない。
ここの鰻重は数ある食べ方(72通り)より選ぶとしたら、「ご飯に山椒を少しかけ、鰻をちぎって皮側を上にして乗せ、一口大のご飯と一緒に口に運び、唇手前で回転させて口の中へ入れ、舌の上にうなぎの皮側を当てるようにして食べるべし」と、以前書いたことがある。
しかし今回改めて様々な食べ方をして思った。
まずうなぎとご飯は一緒ではなく、鰻を食べてすぐご飯をかき込んだほうがいい。
なぜならまずご飯が美味しいからである。
ご飯自体の美味しさもさることながら、タレの掛け具合が絶妙であり、ご飯の硬さがピタリと決まっている。
普通の白いご飯より少し硬めでないと、鰻重は美味しくない。
この「少し」が精妙なのである。
さらにうなぎの方だが、皮を舌に当てるより腹を舌に当てる方が、ここのうなぎはいいということがわかった。
柔らかい腹を突き破った歯は、ふんわりと身に包まれながら皮に向かい、皮舌のコラーゲンが、にゅるんと現れ、甘く舌を包む。
この感覚がたまらない。
そしてすかさずご飯を掻きこむ。
これがうまい。
ご飯の上に山椒を振りかけるのは、交互にしてみた。
さらには脇役陣も完璧である。
鰻重の味を活かすよう、淡い味に仕立て、熱々にされた肝吸い、鰻重の味を切る大根ときゅうりの漬物に、蒲焼の味に添いながら優しく味を切る、最も大切な奈良漬、そして甘いがキレのいいタレなど、一点の曇りもない。
手前の頭側から食べるので、最後は尻尾に到達する。
ここはやや長めにちぎって、皮側を内側にして、二つに折って食べるとおいいしいことを発見した。
先に述べた食べ方といい、これは和匠鰻のせいなのかもしれず、他の養鰻場のうなぎでは食べ方が変わるかもしれない。
そう思うと、「はし本」に出かけるのがますます楽しみになった。