金沢「雅乃」

自然の摂理とは。

食べ歩き ,

カリッ。
揚げられた衣に歯を立てると、微かな音が響いて、熱々の中身が現れた。
胡麻豆腐の揚げ物である。
だがどうして揚げたのだろうか。
葛粉で揚げられた胡麻豆腐は、表面には百合根のようなヒダが入り、巾着型に仕上がっている。
「これを揚げるのには、技が入ります」。
あまり料理の説明をしない老齢のご主人は、ぽそりと言われた。
熱々の胡麻豆腐は、香ばしさと優しい甘みを、緩やかに舌に広げ、目を細めさせる。
下平さんの料理には、円熟を超えた者しか出せない、自然の摂理がある。
イワシだけでまとめた「つみれ汁」の清澄、濃さと淡さがすれすれの線で成り立った、「茄子と茗荷の焚物」、淡味の中から、食材の豊かさが顔をもたげてくる、「冬瓜とハスイモの炊き合わせ」。放たれる青々しさに、夏の到来が浮かぶ、椀種の加賀太胡瓜の豆腐など、野菜料理の巧みは、日本料理の巧みであるという真実を、つくづくを思い知らされる。
唸り、酒を飲み、心やすらぐ料理とは、このことをいう。
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