今日は食べるものを決めていた。
青首鴨だ。
こいつに齧りつこう。
そう決めて
唾液をしたたらせながら、道を歩いた。
突出しは、めひかりのフライ
幼い甘さが、舌の上にはらりと積もる。
一皿目は、前菜の代わりに魚料理から「鹿児島串木野産やがらのロースト、パプリカソース」。
やがらというのは、細長い魚だが
そこのカマ部分と尾っぽ部分の半身をローストしてある。
カマからいった。
ああ。
やがらが、舌の上で爆ぜる。
しっとりと脂がのった、気品ある甘味。
花弁が散るように、身がほどけ、口の中で舞う。
低速調理だとか、半生で火を通すといった調理法が流行っているが、
的確に火を入れた魚調理法の頂点がここにはある。
滋味を目いっぱいはらみながら膨らんだ身。
香ばしさが鼻に抜ける、表面。
尾っぽ部分は、脂が少なく、味が濃い。
繊維質がしとやかで、大きいカマに比べ、繊維が細かくしっかりしている。
持ちうる両端の味わいを皿に盛り込んだ、やがらへの思い。
ほのかに辛い、パプリカのソースが魚の甘みを引き締める。
魚の長い余韻浸っているうちに、運ばれました。
「新潟直送渡り青首鴨のロースト 下仁田ネギ添え」。
皿が置かれただけで押し黙る。
まずは切り身を口に運ぶ。
鴨の質、火入れ、申し分なし。
そしてなにより
厚みがいい。
肉の滋味を余すことなく享受できる、最適の厚みに切られているのだ。
噛む。
歯が肉の間に入っていき、絶ち切る。
その時間に人間の内なる野性が炊きつけられ、とどめなくあふれ出る肉汁が扇動する。
野生ならではの、雑味のないきれいな血の鉄分が、体中に駆け巡る。
肉を食らっているぞぉ
と、心の中で雄叫びを上げた。
葱の甘みと合わせれば、鴨は優しい表情を見せる。
葱のエキスと鴨のエキスが溶け込んだソースは、鴨肉のそのままをそっと支えている。
引き算のソースに、鴨への敬意が滲む。
デザートは、「熊本産和栗のモンブラン」
メレンゲと、マロンシャンティと、栗の粒。
一口食べ、目をつぶると
イガが一面に落ちた、栗林の中に立っていた。