「みかわ是山居」の天ぷらは、一言では言い表せない。
しかしあえて一言にまとめるなら、それは「エレガンス」ではないだろうか。
優雅さや気品と訳される意味と、天ぷらは合わないかもしれない。
しかし魚介の命を最大限に高めた味には、気品漂う美しさがある。
淡い淡い甘みを膨らませたキスや、噛んだ瞬間に顔がほころぶエビの甘い香り、たくましい穴子のうま味、じれったいような味わいに惚れるメゴチ、とろりと溶け出るとトリュフが香る白子など、どれも生命の躍動がある。
衣から次第に水が抜け、加熱された魚介は、自らのうま味や香りを高めていく。
最初は、ゆるい曲線で上昇し、やがて急上昇する。
だがその頂点は、ほんの一点であり、そこからは急降下して、「焦げる」というダメージを負わせてしまう。
その僅かな一点を目ざし、見極める人は少ない。
急降下が怖くて、八合目あたりで引き上げてしまう。
もちろんそれでも十分においしいが、最大限のうま味や香りは出ない。
だが「みかわ是山居」の天ぷらには、その至上がある。
エビは塩をつけなくとも、十二分に甘い。
ただ甘いのではなく、気品に満ちている。
冷たい海の中で餌を食べ蓄えてきた、神秘的な甘さに輝いている。
キスも穴子もメゴチもそうである。
早乙女さんは言われた
「この大きさだったらば、24秒後に芯温は45度から47度になるっていうのは、もう計算できている」。
人間は45度から47度の温度帯のものを食べると、同じ甘さでも甘差を強く感じるからである。
だがこうして「揚げる」技に注目していると、また早乙女さんは言う。
「おいしく揚がるように、魚を選び、それにあった仕事しているんだから当たり前。油に入れる前にもう味は決まっている」。
エレガンス(Elegance)の語源は、ラテン語のエルグレ(Eligere)「厳選する・精選する」だという。
流行りでも、他の誰かでもなく、自分の感性で選んだ結果としてしか、真のエレガンスは生まれないのである。