銀座「天亭」

突発性天丼欲求。

食べ歩き ,

突如として天丼が食べたくなる時がある。
そんな日は、脇目も振らず銀座に向かう。
八丁目と歩いていき、暖簾をくぐる。
ここの天丼は軽い。
天丼は重いじゃないかと、今思われた方もいよう。
しかしここの天丼は軽い。
春風である。
丼を掻き込めば、そよそよと温かく、爽やかな気分が吹き抜ける。
さあ、丼が運ばれた。
蓋をとって、天ぷらたちの雄姿に目を細める。
まずは海老といってみようか。
一口、二口。
引き出された海老の甘みを舌に宿したまま、すかさずご飯を掻き込む。
むむ。ご飯がうまい。
甘辛く濃いつゆにまみれながら、米の甘みが海老の甘みと呼応して、顔がゆるゆるにやけていく。
さあ、お次はどれを攻めようか。
うれしい悩みを瞬時に整理し、組み立てる。
はらり、ほっくりと、口の中で舞い散るキスでいこうか。
濃密なうまみが広がる、穴子にしようか。
弾けるアスパラの香りを楽しむか。
いや、小エビ一つ一つの甘みがつゆの甘辛さと抱き合い、ご飯を呼び込むかき揚げか。
次の種に箸をつけたら、後は一気呵成。
次第に箸を持つ手が加速をし、疾風のごとく食べ終えてしまう。
気がつきゃ丼は空っぽで、底には米粒一つ、汁気一つさえ残ってない。