浜松「勢麟」

穢れなき誇り。

食べ歩き ,

お椀の蓋をあけると、蕪の尖った香りが、鼻をついた。
ツンとしていながら、奥底に優しさを内包した独特の香りである。
中にはシラカワが沈められている。
柚子皮が、別皿で添えられた。
「最初に柚子皮を入れてしまうと、蕪の香りが隠れてしまう。それなので、途中から入れてください」
そうご主人は言われた。
柚子皮を吸い口として入れる。
当たり前だと思い、何の疑問も挟まなかった概念が崩れ始める。
まずお汁を一口飲んだ。
ああなんということだろう。
蕪がすべてをさらけだし、我々と同化しようと舌に流れてゆく。
出汁を一切使わず、すりおろした蕪の滋味だけを抽出したつゆには、うますぎない純粋がある。
土中でじっと身を潜め、養分を蓄えてきたものだけに許される、穢れなき誇りがある。
飲むたびに、微かなうまみを探ろうと、本能が動き始めた。
料理が、鈍っていた舌のセンサーを高めていく。
高め、深めていく。
これは、見逃していた真の旨味に到達できる料理なのかもしれない。
次第になくなっていくお椀を眺めながら、孤高なる清らかさとの別れに、涙が滲んだ。
 
 
 
 
 
Seiki Sato、Hidehiko Oyabin Nishiura、他56人