我々の知ったるスープドポワソンではない。
鶏トサカノリエクストラクションと魚の出汁を乳化させたソースの上には、オリーブオイルとすだちをかけ生のイトヨリ細作りが置いてある。
そして茶色い小片は。赤ワインビネガーと醤油、エスプレットでマリネしたというイワシである。
全体を混ぜて食べれば、ソースにまみれたイトヨリが色気を漂わせ、イワシが浅いアンチョビのような塩気を醸して、ほんのりスープドポワソンの片鱗を見せ始める。
イトヨリを食べ終わると、白いスープが運ばれた。
茶筅で乾燥させて粉にしたヒラメの皮を、ふりかけて、器に注がれ、カペレッティが入れられる。
上澄みだけをそっと飲んだ。
ああ、これはヒラメである。
ヒラメの甘みが洗練に洗練を重ねて、エレガントな甘みとなって漂っている。
82度で二時間かけて作ったという、ヤニック・アレノ特許のエクストラクションという技法である。
食材のうまみと栄養素を、それぞれの食材に適した温度帯と時間によって閉じ込め、抽出させる。
一瞬淡い感覚があるのだが、口の中に入れてすぐに飲み込まず、ゆっくりとたゆたわせていると、ヒラメのすべてがそこにある。
いや正確にいえば、ヒラメのよきところだけが、そこにある。
だから、至上に品があるである。
品そのものといってもいい。
だが舌に残っているソースと撹拌して飲んでみるとどうだろう。
磯香りやイワシの塩気や脂が溶け込んで、次第に海の町の食堂へ運ばれる。
そこにヌッフデュパブを流し込めば、ああ、先ほどのイトヨリに合わせたとは違う太さが膨らんで、海の中へと引きずりこまれるのであった。
COOK JAPAN PROJECTヤニック・アレノの全ての料理は