「冬の厳しさに耐える為、野菜はミネラルを蓄えます。その野菜を煮出した汁です。出汁も塩も使っていません」。
中東さんは、孫の旅立ちを見守るような優しいまなざしで言われた。
汁を飲む。
静かな静かな滋養が、舌を流れていく。
日常で出会う強い料理とはかけ離れた、沈黙のうま味が流れていく。
なにも言えない。
味蕾が研ぎすまされ、口内の細胞が浄化され、心が黙る。
野菜たちの命が、愚直な力が、精神を健やかに導いていく。
「ふぅ〜」。
ため息一つ。言葉は出ない。
真なる感謝の心は、息となって漏れゆくのだ。
京都「なかひがし」にて。