青森県 弘前「しげ作」

麻婆豆腐と生姜焼きの共立。

食べ歩き ,

いきなりの「麻婆豆腐」である。
とんかつ屋のメニューに、「麻婆豆腐」である。
他に中華のメニューはない。
とんかつや豚の生姜焼き、カツサンドに混じって、ぽつねんと「麻婆豆腐」が浮いている。
店主は東京の「東天紅」で長く修行し、故郷の弘前に戻って中華料理の店を始めようと思ったが、あまりの需要のなさに愕然とし、とんかつ屋を始めたのだという。
「本格中国料理屋の麻婆豆腐でも東天紅で学んだ麻婆豆腐でもありません。とんかつ屋の麻婆豆腐です」。ご主人は謙遜していう。
だがその秘密は肉にあった。
ロースカツを作る際に、薄く切り取った肉があっただろう。
あれを包丁で微塵にして麻婆豆腐を作ったのである。
注文後に、塊肉から包丁で手切りして作る麻婆豆腐には、中々出会わない。
豆豉も入れない。花椒も辣油も山椒油も入れない。
だが実に肉々しく、噛み締めるうまさのある、肉を楽しむ麻婆豆腐なのであった。
さて、ロースカツもカツサンドも麻婆豆腐も食べた。
ちなみにこの店の前は、居酒屋で散々飲み食いしている。
だが食べてしまったのである。
さらには、カツの美味しさに満足しながら「きっと、生姜焼きもポークステーキも美味しんだろうなあ」と独り言が漏れた。
「小さいの2枚くらい食べますか?」
「はい」。ご主人の言葉に即答した。
その生姜焼きも特殊なやり方である。
肉の塊肉から切り出した、ロース肉薄切りを半分に切り、塩をふり、片栗粉をまぶす。
そしてラードを少しひいたフライパンに置く。
そこから火をつけるのである。
中火弱で熱し、色が変わったら返し片面も焼く。
そして強火にし、タレをかけて盛大にフランベする。
タレは醤油1に酒2ケチャップ少々とみた。
そして砂糖を少々入れ、煮詰めて出来上がり。
見てください。
姿だけで、もうご飯泥棒である。
豚肉はとろんとソースともに口に滑り込み、「ううっ」と叫ばせる。
そして「ああっご飯が欲しい」と、叫ばせる。
すべてご自身で考えられたという。
カツも火をつけない状態から揚げ、焼くのも、試行錯誤の末に編み出したのだという。
恐るべし「しげ作」。