「日本に来た玉葱の原種なんです。ただ形がみすぼらしく、しかも黒みがかっているため、商品として流通できない。
でも札幌の名がつけられたものをなんとか使いたくて、北海道大学で実験的に作っているものを分けてもらいました。
仏の玉ねぎより糖度が高く、繊維が溶けるようにしなやかで、複雑味もあるすぐレモンなんです」。
小柄なシェフは、穏やかな口調で訥々と玉葱の説明をしてくれた。
「幻の玉葱 札幌黄のオニオングラタンスープ」
その料理は、
地下鉄の駅から雪降る街を歩いてきた身体を待ち構えていた。
甘みだけではない、うまみが濃密に絡み合い溶け込んでいる。
あえて誤解を恐れずに言えば
ウースターソース。
ウースターソースからすべての雑味を取り払い
甘みを増やし
塩分を減らし
洗練に洗練を重ね、磨きこみ
スープに仕立てた、味わいか。
奥深く 優しく、穏やかで、たくましい。
そこには、他のオニオングラタンスープに見られる
玉葱の甘みだけに頼るような「甘え」がない。
凛然として揺るぎのない味なのである。
あとは、ただただ唸るしかない。
玉葱の力に、ただただ頭を垂れるしかない。
また一つ、札幌に来る理由が見つかった。