麻婆豆腐とは、豆腐を慈しむ料理である。
しかし、「サカエヤ」のミンチを使った麻婆豆腐は、牛を慈しむ。
噛めばまず、牛肉の香りが鼻に抜けて、うま味が広がり、その後から醤のうまみや麻辣の刺激が追いかける。
花椒や一味、豆板醤をたっぷり使ったのに、辛みや痺れが先立たない。
甘みは一切入れていないのに、甘く感じるのは、良質な牛脂の香りが溶け込んでいるからなのだろう。
ミンチなのに噛み締める喜びがある。
それがあるからこそ、絹豆腐の優しさが引き立つ。
「今までと違って、こんな品がある麻婆豆腐は初めてです」。
同席者の一人がいった。
「僕の想像の三倍は辛味を入れていました、それなのにマイルド」
と、同席した料理人がいった。
そう。
すべては牛の力である。
肉を見極め、肉に合わせて挽肉にした誠実な仕事が、品を生み出す。
牛を慈しむ麻婆豆腐
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