丼界において、焼き鳥丼は親子丼に遅れを取っている。
肉汁と歯ごたえ、タレの濃い味わいでご飯を掻きこませる力は十分あるのに、手間がかかる点や玉子好きが世に多い点、鳥の質で味が左右されてしまう点などのために、焼き鳥屋以外はなかなか手が出せない料理となっている。
しかも焼き鳥屋は夜からの営業が多いため、一般的な丼ながら希少な丼にもなっている。
しかし一方で、昼に営む焼き鳥屋にとっては技の見せ所で、胸のすくような優れた焼き鳥丼に出会うと、つい夜にも出かけたくなるってもんだ。
そんな焼き鳥屋の矜持に満ちた焼き鳥丼を見つけた。
虎ノ門の鳥与志である。
まず第一の魅力は、串に刺さった鳥肉の大振りなこと。
タレ焼きのもも肉や塩焼きの手羽先は、歯が食い込むような食感があり、脂と肉汁とタレがからむ喜びがにじみでる。
胸の軟骨をたたいて混ぜた大きな鳥団子は、挽きが荒くて噛み応えがあり、時折コリリと歯に当たるアクセントが楽しい。
そしてなによりの魅力は血ぎも。
ほんのりレアのやさしい火入れで、噛み込むとじんわり甘く目が細くなる。
さらなる魅力は、焼き鳥の下、ご飯の上に敷きつめた鳥そぼろ。
淡い味付けながら存在感があり、そぼろの煮汁と濃厚なタレ味がからまって、ご飯を勢いよく掻きこませる。
焼き鳥ほおばり、すかさずそぼろご飯と、楽しみがつきない焼き鳥丼は、鶏に厳しい昨今だからこそ、人間の欲とわがままを反省しつつ、食べたい丼である。
「鳥与志」港区虎ノ門1-1-11マスダビル1F 3503-3545 11:30~13:30 17~23土曜日曜祝日
「焼とり丼」\980 虎ノ門より徒歩一分