焼き魚定食千三百円
「高野」は、ビルの谷間に挟まれ、ひっそりと佇んでいた。打ち水された石畳が十メートルほど伸び、玄関へとつながっている。「うまい焼き魚が食べられそうだな」。うれしい予感がよぎった。構えが料亭風だからではない。品のよい風情と客を迎える暖かみが伝わってくるからだ。
「いらっしゃいませ」。戸を開けると、きっぱりとした男性の声と、柔和な女性の声に出迎えられた。声の主は、鍵の字のカウンターの中で働く板前さんと、サービスを受け持つ年配の女性陣である。席に着けば、「本日の焼き魚は、鯖とサンマとわらさ、あこう鯛の西京焼きとサーモンの味噌焼きです」と伝えられ、期待が高める。悩んだあげくに鯖を注文すると、目の前に丸々太った鯖を取り出して三枚におろし、串を打ち、塩を振って焼き始めた。そんな光景もごちそうである。
やがて運ばれた鯖に箸を入れれば、湯気と香りが立ちのぼってたまらない。身はしっとりと皮はパリッと仕上がった焼き具合、上品な脂の乗り、塩加減申し分なし。魚の勢いにご飯が少なくなると、「お代りはいかがですか」。お新香がなくなると、「どうぞ召し上がって下さい」と、間を置かない気配りも心地好い。後日裏を返していただいた鮭の味噌焼きも、味噌の風味が鮭のうまみを引き立てていて、ご飯が進むこと。アラの小鉢、ご飯や味噌汁も上等。背を正したくなる当たり前の贅沢に感謝する、有意義な昼ご飯である。
つきじ高野
焼き魚定食千三百円
日祝
3541−6355
中央区築地3−12−2
閉店
写真はイメージ