西新宿「山珍居」

焼 き ビ ー フ ン 七百円

食べ歩き ,

台湾料理は味が濃く、塩辛い。

台湾料理にこんなイメージを持たれている方は多いのではなかろうか。
たしかに濃い味付けの料理もあるが、基本は淡味である。元来家庭的な料理であるから、素材の持ち味を素直に生かすよう、塩味は強くない。

新宿西口に創業して以来五十一年経つ、台湾料理店の老舗格「山珍居」で料理をいただいていると、そのことがよくわかる。

中でも、その淡い味わいがもっとも端的に現れているのが、焼きビーフンだろう。
他店では、塩味が強い調味のものや、醤油を使った味付けのものが出されることが多いが、この店の焼きビーフンは実にあっさりとしている。
見た目も、こんもりと盛られた真っ白な焼きビーフンの頂上に、ハム、きんし卵、グリンピースが少量飾られているだけで、至ってそっけない。しかも具は、キャベツと干しエビだけというシンプルさである。

ふわりと軽く仕上がった細目のビーフンを、箸でつまんで口に運べば、ビーフン自体の味が口いっぱいに広がる。塩味も化学調味料も、極々控えめ。スープの味と干しエビの香りが、うっすらと滲み出る程度だ。
こんな淡味の焼きビーフンは、それだけで食べてもおいしいが、他の料理と組み合わせて食べると、よりいっそう楽しめる。
例えば、揚げた豚の背脂、もやしと炒め合わせた、ニラ炒め(六百五十円)と食べ合わせるのもいいし、微塵に切った台湾の沢庵と葱を混ぜ込み、ふんわりと薄焼きにした、卵焼き(八百円)で包んで食べてみてもうまい。

または、エンチャン(腸詰め、千円)を頼み、その香り高い味わいと一緒に食べながら、エンチャンのつけダレをちょいとかけてみるのも面白いし、バーフー(甘辛い豚肉のでんぶ 千二百円)を、上にパラリと振りかけてみてもいい。

わたしが好きな食べ方は、辣豆腐(台湾の辛い腐乳、豆腐を発酵させたチーズのような食べ物 三百五十円)を少しずつつまみながら、焼きビーフンを食べてビール(六百円)を飲むことだ。
さらに、クセのある辣豆腐の漬け汁を箸の先につけて、焼きビーフンにチョンチョンとたらせば、格好の肴にもなる。 こんな様々な食べ方を覚えてしまうと、困ったことに、塩味の強い焼きビーフンなど見向きもしなくなってしまうのだ。