上海蟹のうまみというのは、ミソや卵、白子が前面に立つので、濃厚である。
圧倒的なうまみで迫ってくる。
だがそれだけではないということを、この麺は伝えてきた。
「上海蟹のコンソメラーメン」には、雑味がない。
澄んだ静かなうまみが丸く舌を包む。
心安らぐ味わいに、そっと微笑んだ。
牛頬肉の煮込みだという。
豆豉風味で煮込んである。
ほろりと崩れるゼラチン質の甘みに、豆豉の練れたうまみが溶け込んで、とても心地よい。とろんと溶けゆくコラーゲンの甘美を際立たせるのだった。
この料理は特別にお願いした。
修業先である「シェフス」の料理である。
だが「シェフス」では、もうやっていない。
「干し貝柱」のいためである。
干し貝柱しだけを炒めてある。
もはやうまみの、アミノ酸の凝縮である。
舌に乗せると、「うまい。うまい。うまい」と、責め立てる。
だから白いご飯が恋しくなる。
こうしてご飯に載せるのが正解で、上海のお金持ちたちが好きな、高級なご飯の友である。
開店してばかりの、元レンゲ西岡シェフの、築地「372シノワズリ」にて。