もうなにも言いたくない。
ひと匙の液体を味わった時、思った。
ジュレが、ひんやりと舌の上を滑っていく。
瞬間、体の力がふわんと抜けた。
最初は淡いうまみを感じ、次第に深まっていく。
喉に落ちる刹那、頂点に達し、深淵の見えぬ滋味となって膨らみ、甘やかな香りだけを残して別れを告げる。
濃密ながら、地平線の彼方まで清澄で、心の汚れが剥がれ落ちていく。
冷たいコンソメゼリーである。
「暑くなってきたのでお出ししました」。シェフは言う。
牛骨や牛もの肉でフォンを取り、牛スネ肉で引いた液体は、4日間かけて作る。
出来上がったコンソメは、自らのコラーゲンで冷やし固まる。
清らかなのに滋味深い。
寡黙なのに饒舌な旨みが重なっている。
恍惚になりながら、いちいち味を説明するのがばからしくなってきた。
だがその沈黙は、感動をともなう沈黙であるから、たとえ嘘になろうとも、文字にしたい。
書くことは、自分の心と対峙することなのだから。
銀座「ラフィナージュ」にて。



