母の想いが詰まった炒飯は、何度食べても飽くことがない。

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炒飯3
昭和35年創業の店で、女主人は50年間、重い中華鍋を振るってきた。
十数年前から息子が鍋を振るうようになったが、大切な客の時は、タンメン用の具の炒めも炒飯も、お母さんが作る。
息子が作るタンメンも、必ずスープを小皿に注いで、お母さんに味見をしてもらう。
人気は「セット」と呼ばれる、半チャンラーメンである。
次がタンメンで、客の九割はこれらを頼む。
炒飯は他店では見かけぬ、赤い色合いをしている。
作り方は、卵を鍋に割り入れ、菜箸で溶きほぐし、ご飯を入れ、何回も炒め返す。
ネギを入れ、塩コショウ、味の素少々を振り入れる。
そこへチャーシューを刻んで入れ、最後に醤油を一たらし。
赤いのは、チャーシューに秘密があって、細かく刻み、甘辛く煮ているからである。
肉片にからまった赤黒い煮汁が、米を赤く、ほのかに甘く染める。
丸い山を突き崩し、一口食べた途端、ほろっと心が揺らぐのはそのせいである。
遠い昔の記憶が蘇って、涙がにじむ。
油っぽいし、決して上品じゃない。
でも気取りがなく、たんと食べなさいという母の想いが詰まった炒飯は、何度食べても飽くことがない。
それは焼きメシと呼んだ方が正しい、昭和のささやかなご馳走なのである。
原宿から恵比寿へ「栄楽」にて。