森に潜む精霊の声を聞いた。

食べ歩き ,

森に潜む精霊の声を聞いた。
昼に採ったばかりの松茸を刻む。
薄く薄く手早く刻む。
そのまま直ちに粥にして運ぶ。
蓋をそっと開ける。
香りが立ち上って、顔をまあるく包む。
途端に目眩がした。
圧倒的な香りではない。
どちらかというと、幼い香りである。
汚れなき、澄みきった、人間が触れてはいけない香りが揺らめいて、鼻腔の襞を撫でる。
そのとき我々は聞いたのだ。精霊の声を。
言葉ではなく、吐息でもない。
幽邃の中で、囁く意思を聞いたのだ。
我々人間が捉えようもなき、自然の秘密である。
それは、舌と精神を引き締め、洗い、浄化し、脳を震わせ、ゆっくりと心を溶かしていった。
金沢「片折」にて。