栗羊羹、栗ご飯、栗きんとん、天津甘栗。
日本人にとって、栗料理といってまず思い浮かぶのは、この四種類の料理ではなかろうか。
中でも、栗本来の魅力、「実り豊かな秋」を痛感させるのは、何といっても栗ご飯だろう。
栗の香りと味わいがほんのり移ったご飯には、「ああ秋だなぁ」と、思わずつぶやかせる力があるのだ。
そんな秋を感じさせるご飯と栗の関係をイタリア料理で楽しめるのが、「グラナータ」の「栗のリゾット」である。
リゾットは、昼のみ単品で注文可能で、まずつきだしにサービスとして、オリーブ油で和えた生トマトの微塵がパンの上に乗る、ブルスケッタが出される。
やがて栗のリゾットが、半分に切った巨大なパルミジャーノ・チーズのくぼみに入れられて、湯気を立ち昇らせながらうやうやしく現れる。
「おいしそうね」と、周囲のテーブルから羨望のまなざしが飛ぶ中、皿に盛ってくれるのだが、チーズが好きなら、器になっていたチーズを存分に削り取って、リゾットの上にかけてもらうといい。
米を炒め、牛と鳥と野菜でとったブロード(だし)で煮、蒸した栗とバター、チーズを加えた艶やかなリゾットは、うっすらと黄ばみ、そこここから栗が顔を出している。
最初に米だけを口に含むと、チーズの塩気やブロードの風味が先行して栗の味がしない。だが、アルデンテに仕上げられた米を噛み締めていると、栗の味わいがほのかに滲み出てくる。
そこですかさず栗を一口。ほっくりとした優しい甘みに顔が和み、再び米が食べたくなる。奥歯で噛み締め、それこそこめかみに力を入れて味わう歯応えのある米と、ほくほくとした栗の食感が、ことのほか相性がいい。
考えてみれば、栗ご飯がもち米を少量混ぜてもっちりとした食感にして、栗の甘みが生きるように、リゾットの歯応えも、栗の持ち味を生かしているのだ。
といっても栗ご飯のように、淡い味わいによって栗の風味が前面に出るのではなく、強いチーズとブロードというイタリア的味わいの中より、栗の甘みがじわじわと伝わってくる仕組みである。
それゆえに、ゆっくりと食べ進めば、次第に口の中は栗の風味で充満し、最後には、「秋だなぁ」とつぶやく、というわけだ。
写真はイメージ