東京とんかつ会議92築地「かつ平」ロースカツライス1150円 お新香150円

とんかつ会議 ,

東京とんかつ会議92
築地「かつ平」ロースカツライス1150円 お新香150円
【肉2油3衣3キャベツ3ソース2御飯2味噌汁2お新香3特記なし合計20点】
 
 10数年ぶりである。
 いやご主人に聞いたら、移転したのが15年前だというから、もう20年も来てなかったのかもしれない。以前は、今の場所から数十メートルの所にあって、木造だった。
 快活な話し方をされる現在のご主人は二代目で、53年続く味を受け継がれている。とはいえ、現代風の食べ方も心得ていて、「もしよろしかったら、一切れ目は何もかけずにお召し上がりください。右端の一切れはカルビにあたる部分です。塩をかけるとおいしいですよ。またお好みで、七味をふりかけてもみてください」と、助言されている。
 注文を逡巡していると、「脂があるのがロースで、ないのがヒレカツになります」と、説明された。こういう助言や説明は、ややもすると押し付けがましく、嫌みに聞こえてしまうことがあるが、ご主人のそれは、誠実さがにじみ出ていて、心地よい。
 ロースカツは、他にはない昔ながらの紙カツを踏襲するスタイルで、薄く、大判で、粗い衣がつけられている。口をあんぐり開けてかじろうとすれば、ラードの甘い香りが立ち上って鼻をくすぐる。その香りとともに食べれば、薄いながらも肉の味が膨らみ、脂もいっそう甘く感じられる。とんかつとは、こうでなくちゃ。
 そりゃあ肉質は、最近のブランド豚には負けるかもしれない。だがとんかつという料理の魅力を、存分に備えて、我々を喜ばしてくれるのである。厚い切り身のとんかつが喜ばれる時代にあって、この料理の意味を問うスタイルともいえよう。
 サクサクと弾ける衣は粗く、薄い肉とのバランスが悪いようにも思われるが、ラードの香りを吸って、肉を引き立てる。粗めのキャベツもみずみずしく、甘く、ソースの後味のいやらしさがない。お新香は、白菜浅漬けに、大根、人参、きゅうりのぬか漬けに、紅ショウガと嬉しい布陣である。
 近隣は、都内で唯一、木造と銅板の三軒長屋が残っている。戦災と再開発を逃れたこの昭和一桁の風情も、築地市場の移転とともに様変わりしていくことだろう。
 だが「かつ平」はここに残る。残って営々と、昭和のとんかつが持つ、ささやかな贅沢とその温かみを伝えていく。