東京とんかつ会議76西麻布「三河屋」とんかつ定食1100円
【肉2衣3油3キャベツ2ソース2御飯2味噌汁2お新香2 特記ミックス定食 計19点】
前身は、肉屋さんである。一見すると、どの街にもある、いたって普通の肉屋だったが、なぜかいつも店前にジャガーやベンツが停められていた。
客の目当てはコロッケだった。それは、高級外車に乗り、高級マンションに住もうとも、車で乗り付けるほど、ひきつけてやまないコロッケだったのである。
店は90年代に揚げ物中心の定食屋になったが、コロッケのうまさは変わらず、20数年来の人気店である。
出かけた日も10人並んでいたが、誰一人として不機嫌な顔をしていない。心なしか丸顔が多く、人のよさそうな顔立ちである。やはりフライ好きに悪い人はいない。
そんな客に囲まれてきた店の方々も、愛に満ちている。最後尾の人に、「メンチ終わっちゃったから、これから並ぼうって方には、お仕舞だって伝えてくれますか。すいませんねえ。バイト代出しますから」。と気さくなお姉さんが冗談を飛ばす。席に着けば、「お待たせして、すいませんでした」とお父さんから声がかけられる。
この店は、家族経営である。長い間揚げ物を担当していたお母さんは引退し、お父さんと長女がサービスを担当し、三女が揚げ物担当である。
席に座るなり、「熱いから気を付けてください」と味噌汁を渡され、並んでいるときに聞かれた注文が、五分もしないうちに運ばれる。
とんかつは、ブランド豚に比べればやや質は落ちるものの、肉に甘みがあり、この価格では十分お値打ちである。細かく粗い衣は密着し、カリカリと香ばしく、油の切れもいい。衣がこげ茶になるほど高温で揚げているが、最後まで肉はパサつかない。芋の甘みが前面に出たコロッケ一個と、分厚いハムカツがつくのもフライ好きにはたまらない。
キャベツの切り方は粗いが甘みがあり、柔らかめのご飯、キャベツと玉ねぎの甘みが出た家庭的な味噌汁もいい。お新香は高菜漬けだけだが、この価格では致し方ない。ソースは甘めである。
コロッケ、メンチカツ、ハムカツ、チキンカツを盛り合わせた、フライのオールスターゲーム、「ミックス定食」もおすすめである。味の濃いメンチとハムは、サクッではなくカリッと高温で揚げているようで、揚げ手である三女の背中が凛々しく感じる。 家族の愛に満ちた揚げ物三昧。「ありがとうございましたぁ」。
優しい声に送られて、胃袋も気分も温まった。