東京とんかつ会議50 御徒町「本家 ぽん多」2625円 ご飯セット525円

とんかつ会議 ,

東京とんかつ会議50
御徒町「本家 ぽん多」2625円 ご飯セット525円
<肉3、衣3、油3、キャベツ3、ソース3、御飯3、新香3、味噌汁3、特記各種フライ1計25点>
今回も満点をつけた。一点の曇りもない。
この店のとんかつを食べて、なによりいつも思うのは、「香りの良さ」である。
「本家 ぽん多」のとんかつは、脂と肉の火の通りの差を出さないため、ロース肉の背側の脂を掃除して取り除く。そのためロース肉であるが、脂身がついていない、ヒレ同様の肉だけのとんかつとなる。脂身を掃除して少なくする店はあるが、この仕事は僕が知る限り、当店と代官山の「ぽん太」だけである。
我々が、ヒレカツよりロースカツをテーマに選んだのは、脂身こそ豚肉の魅力であり、ロースは、脂身と肉を同時に楽しむ喜びがあるからである。しかし「ぽん多」のそれには、脂身がない。いや正確に言うと、脂身だけの部位が無いというだけで、肉に刺しこんだ細かい脂はあるのである。だからパサつかない。しっとりとして香りがある。それは脂がきめ細かく刺しこんだ、最上質の肉を選んでいる証左である。
そして香りがいい。香りの魅力は二つある。衣に歯がサクッと当り、身質が密な肉にめり込んでいくと、豊かな肉汁と共に、ほの甘い香りが口の中に広がり、なんとも愉快な、笑し出したくなる幸せを運んでくる。これが豚肉の香りだあと叫びたくなりながらも、ほのぼのとした気分を呼ぶ、優しい香りである。
本来香りは、脂身の中に多くあり、肉には少ない。しかし多くあるということは脂が含んだ香りに邪魔されて、本来の肉の香りが味わえないこともある。上質のヒレカツを食べた時に漂う、ほの甘い香りと同じ、肉が放つかぐわしさである。
もう一つの香りは衣にある。サクッと歯触りが軽く、油切れのいい軽快な衣の香りがいい。ラードの甘い香りだけではない複雑さがあるのは、主体のラードに、ビーフシチューを作る際に出る、牛脂などを少量加えているからである。これによって、さらに食欲をワシヅカミする香ばしさをまとって、カツは揚げられるのである。
とんかつは塩も何もかけずに食べ始めるのを、お奨めしたい。肉や衣の香りと味わいを存分に堪能してから、塩や特製ウースーターソース、辛子などで楽しむのがいい。
とんかつの味が最もよく味わえる切り方、キャベツ、お新香、ご飯、味噌汁も上等で、考えうる限りの理想的な和定食である。
隅々まで清潔が行き届いた店内。的確で心のこもったサービス、スムーズな仕事の流れを生む、料理長である四代目を支える、弟さんや番頭さんの正確な仕事ぶり。余計な口を叩かないが、「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」に込められた誠意。日本の古き良き、誠実な食堂の姿がここにある。