東京とんかつ会議12

東京とんかつ会議12
湯島「井泉」の特ロース1600円 ご飯、お新香、豚汁各200円
<肉2、衣3、油2、キャベツ2、ソース2、御飯3、新香3、味噌汁2、特記海老コロッケ計20点>

昭和5年創業。森繁久弥主演の映画「とんかつ一代」の舞台となった店として知られる。植木と蹲に囲まれた木造家屋の入口は風情があり、下町の古いとんかつ屋に訪れる喜びを湧き上がらせる。
店内は一階がカウンターとテーブル席。二階が入れ込み式の座敷。注文が入ると、一つの鍋でじっくり揚げ、丁度とんかつの長さの小さなまな板にのせて、切って出すのが特徴だ。ロースは、周囲の脂を掃除した、肉を食べさせるとんかつで、これが「ぽん多本店」同様に昔の仕事なのだろう。脂がなくともほの甘く、端っこまで肉感に溢れたロースカツである。「箸で切れるとんかつ」がキャッチフレーズだが、ただ柔らかいのではなく、噛みしめる旨さがある。ただしこの価格帯における他の新しいとんかつ屋の肉と比べると、やや物足りなさを感じる。
また高温系で揚げるためか、しっとり感や肉汁感が少し弱く。衣が剥がれる部分もあるのが残念だ。逆に中粗の衣はカリッと揚がり、油切れよく。ソースは、とんかつソースのような甘さが少なく、ウースター的な締まりのあるさらりとしたソースで、このカツとも合う。肉と共にご飯が恋しくなるソースだ。
キャベツは極細、切りたてではないが充分みずみずしさがある。ご飯は、香り甘さとも素晴らしく、胡瓜、白菜、人参、柴漬けという布陣のお新香と共に、店の誠実さがにじみ出ており、和の定食を食べる喜びがある。豚汁は濃すぎず、丸太に切った葱の食感と香りがいいアクセントになっている。
急須と共に出される食前食後のお茶、帳場の女将さんの物腰の柔らかさ、淀みのないサービス、清潔感溢れる店内。外国のお客さんが来られていたが、食べ方を丁寧に説明し、小鉢を持ってきてソースを入れて、漬けても食べるように説明していた。昔ながらの食堂の温かい、真っ当な心根が隅々まで行き届いていて、心地よい。
二階の入れ込み式座敷は趣があり、「かつ前」に酒を飲んで、ゆっくり過ごすのもいいだろう。