六本木「ラブリアンツァ」

春來たりて、乳の香り。

食べ歩き ,

春になるとアバッキオ(乳飲み仔羊)が食べたくなる。
ローストされた肉は、優しい色合いをしていて「そっと噛んでね」と、囁いてくる。
最初から、手で持ってかじる。
しなやかな筋肉が歯にかかる。
その瞬間、乳が、甘く香る。
いたいけな滋味が、こぼれ落ちる。
仔羊の香りはなく、ウサギに似た柔らかな味わいが、口の中で遊ぶ。
この山形の乾燥ひたし豆の付け合わせもいい。
素朴な豆の甘みがアバッキオの、幼いうまみに歩みを合わせ、気分が穏やかになっていく。
最後は、骨についた筋を、歯で剥ぎ取るようにして食べていく。
ここがうまい。
成熟する前の筋肉が持つ禁断が、詰まっている。
さらに腿も焼いてもらった。
可愛らしい腿である。
赤いので、早くも鉄分豊富かと思いきや、これも味がつたない。
今後跳ね回るであろう肉のたくましさがかすかにあって、胸がうずく。
最後はアバッキオラーメンときた。
水を替えながら、二日間血抜きをした骨でとったスープと、ハタ麺で仕上げたラーメンである。
鶏の出汁のような澄んだ味わいがあって、山椒葱油が味を深くする。
なくなっていくのが悲しくなる。
ラーメンは、そんな慈愛に満ちていた。