料理人なぞ

食べ歩き , 日記 ,

料理人なぞなるつもりはなかった。
しかしトルコで出会った料理にしびれた。
東京に戻り、あの料理を再びと願っても食べられない。
なら自分で店を作るかと、24年前に店を立ち上げた。
近くに住む中近東の方々から、母親の味、家庭の味の助言をもらい、料理を進化してきた。
中野という飲食店としては恵まれぬ土地で、珍しい料理で、長くやってこられたのも、味にご主人の誠実が染みているからだと思う。
昨夜の料理には、温かくたくましい、母の味があった。
気取らないが、豊かな気分にさせてくれる、愛情があった。
「ありがとうございます」という、お二人の笑顔がそれを物語っている。
豆の優しさが出たホムス、焼いた茄子の香りが後を引くババ・ガヌージ、辛いエズメ・サラダ、チーズ春巻きのシガラ・ボレイ、フェタと焼きチーズの塩気でワインが進み、ヒヨコマメコロッケ ファラフィの香りに食欲が弾み、茄子と羊挽肉のムサカにやられた。
そして、シシ・ケバブ、シシ・キョフテ、メルゲーズのクスクス。ハリサ一人一個でね。
ワインもチュニジアのミュスカから、トルコのヴィラドルジャ、レバノンのクサラと旅をして、一杯飲んだのは、決して我々が呑兵衛だったからだけじゃない。お父さんの料理がおいしかったからだな。
中野「カルタゴ」にて。