戦争から帰ってきたら、本牧の家は跡形もなかったという。
「そりゃむなしいよ。悔しいよ」。
兄のつてで阿佐ヶ谷に住み、さて何をするかと考えた。
「食べることがむかしっから好きでねえ」
「ある日、焼き鳥、いまでいう焼きとんを食べたんだ。そんときねえ、こりゃいけんじゃねえかと思ってね」。
独学で始めた。
しかし彼の反骨精神が一筋縄でいかぬ串を生む。
「焼鳥」と看板にあるが、出しますものは
牛タン、牛レバー、豚バラ、子羊。
ピーマン味噌づめ、シイタケホイル焼き。
ネギは真っ黒に焼いた蒸し焼き。
手羽さきはカレー風味、みさきはニンニクバター。
いずれも、焼く寸前に肉の固まり取出し、塊で串刺し、焼いて切る。
牛タンだってタンモトだけ使うから
1塊で10本しか作らないんだから。
「いろいろ考えるのが好きでね」。
と、うれしそう。
カウンター10席は今夜も満席。
いつも颯爽と焼き台の前に立っていた親父は
今は弟子に任せ、客席に座って常連と談笑している。
親父さんいくつになったんですか?
「86か7だな」。
としゃがれ声で答えた。
日の出町「だるま」は2013年に閉店
戦争から帰ってきたら
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