銀座「ラフィナージュ」

愛には熱情で応える。

食べ歩き ,

「南部鉄器で新しい焼き台を作ってもらいました」。
キュイッソンの天才シェフは、新しいオモチャを得て、嬉しくてたまらないらしい。
網の上には、愛農ナチュラルポークの肩ロースが乗っている。
「切って焼いたら新保さんに怒られそうなので、塊で焼きました」と、冗談を言ったが、そう焼きたかったのは、自分自身だろう。
皿には珍しくソースがなく、魅力を凝縮した新玉ねぎが添えられている。
肉か脂か。
どちらから行くか迷ったが、脂の誘惑に負けた。
口に近づいた頃から甘い香りが漂う。
脂を噛めば、ゆるゆるではなく、密度を感じる確かな歯ごたえがあるが、それも最初の一二回で、脂は何事もなかったかのように消えていった。
後は、甘美な余韻だけがたなびく。
いつまでもいつまでもたなびく。
しばらくうっとりと、余韻に浸りたかったが、左側の肉にものぞむ。
薄いロゼ色に仕上がった肉体に、歯が入る。
きめ細かい筋肉に包まれる。
柔らかな滋味が流れ出す。
愛農高校の生徒たちが注いだ愛が、滴り落ちる。
愛情をかけられ、育まれた豚は、澄んでいる。
その純潔にソースは必要なかったのだろう。
甘やかな玉ねぎが、静かに静かに、豚のうま味を見守っていた。