「コラボは意味がないと思います」。
「ルマンジュトゥー」谷シェフと「トワヴィサージュ」國長シェフという、師弟コラボ会で、最初に谷シェフから発せられた言葉である。
「だから老兵は口出さず、若い人たちに任せました」
そう言いながらも、隅々まで谷シェフの思想が皿に染みている。
國長シェフが料理を考え、何度も何度も谷シェフのところへ足を運び、料理が決まっていったという。
「斉須シェフと話したら、そう言われたんです」。
谷シェフは言葉を続ける。
「年を重ねると、次第に足さなくなってきました」。
その表しの一つが、この筍料理である。
「京筍 物集女」と題された皿には、生地の中に檜の葉を入れて、岩塩包焼きにされた筍が座っていた。
ソースは、筍のボトム部分の微塵切りとオリーブオイルだけである。
最初國長シェフは、もっとうまみのあるソースを考えていたという。
しかし筍を一口食べた谷シェフは言った。
「なにもいらない」。
香りと味が凝縮された筍は、筍ソースに囲まれて、その切ない甘みを一層膨らます。
うまみの深いソースだったらわからなかった繊細な滋味を、我々の味蕾に落とす。
それでこそ、春という季節への感謝が生まれる。
鶉のファルシや金目鯛のブールブランソース、シストロン産仔羊とニンジンのローストもまた、削ぎ落とされていた。
主役が明瞭で、料理の思想が皿から飛び出さずに、中央にどっしりとおさまった、素晴らしきフランス料理だった。
「國長シェフは、弟子の中で料理が一番下手だった。でも一番真面目だった」と、谷シェフは言う。
それは、誠実がいかに料理にとって大切なものか、教えてくれた瞬間だった。