左の頬を殴られながら右の頬にキスされている。

食べ歩き ,

左の頬を殴られながら、右の頬にキスされている。

そんな料理だった。
ここで何回も食べた元祖麻婆豆腐ながら、どこか違う。
とても辛く、痺れるのだが、攻撃ばかりでなく、優しさもある。
そうか。いつもより豆腐の味わいが滲み出ていて、それが優しいのか。
「初夏の料理は、油と辛さの塩梅が一番大事にね」。趙楊さんは言う。
「だから麻婆豆腐は、油の量を控えて豆の風味を立たせなくてはいけない」。
四季と無縁なような四川料理だが、そこには繊細な季節と体への配慮がある。
二日間かかって作られた上湯には、グリンピース、空豆の餡を詰めた鶏肉の団子と朝鮮人参、キヌガサダケとその胎盤が入っている。
どこまでも澄んで、どこまでも深いスープに朝鮮人参が香る。
だが出過ぎない。
その塩梅が素晴らしく、朝鮮人参は主張しすぎずに、静かに香り、慈養を忍ばせる。
ニンニク風味の五目煮込みは、ガツでとったという白湯をベースに、豚ひき肉の寄せもの、干しするめいか、ガツ、スッポンの卵二種類、にんにく、チベットの5千メートル級の鉱山にしか生えていないという、手形の人参を合わせる。
牛肉とハトムギの炒めは、家庭風にヤーツァイで風味をつけ、茹でてから揚げた空豆と炒めあわせる。
そしてデザートは三不粘と似ているが、まったく異なる。
一口で口に入れれば、ポテッと舌に滑ったかと思うと、すぐさま液体となる。
かぼちゃの甘みが広がって、朝鮮人参がほのかに香る。
かぼちゃと朝鮮人参を煮てミキサーでスープ状にし、アルギン酸とクエン酸を入れた熱湯に落として作ったのだという。
ううむ。恐るべし趙楊さん。