小さな食堂

食べ歩き ,

西麻布に小さな食堂がある。
お客さんは毎晩4〜6人のひと組だけで、シェフ一人が切り守りされている。
肉も魚も仕込みはせず、お客さんが来てから料理を始める。
手間暇はかけないが、実直で美味しい料理と、素晴らしきワインが用意され、友人の家に招かれたかのように、屈託なく楽しめる。
シェフはパリで200人のレストランのシェフをやられていた方である。
だが帰国して、当面は本格的フランス料理をするのをやめようと思ったという。
なぜですか? と聞くと、照れながら理由を話してくれた。
「フランス料理店には、料理を召し上がる前にやることがたくさんある。しかしそれをお客さんに強要したら、あれをしろ、これをするなと、口うるさいラーメン屋のオヤジのようになってしまう。自分が死ぬ物狂いで学んできた料理が無駄になる。だからやめました」と言われた。
これもまたフランス料理に対する、ひとつの愛なのだろう。
料理には知識がないと、おいしいかおいしくないかわからないと言う側面がある。
彼はそのことが耐えられないだろう。だが続けて言われた。
「パリで200人のレストランを仕切った時、ブラックな修業時代の厳しい教えがあったからこそ、乗り越えられました。その修業時代にシェフから言われた言葉をいつも胸に刻んでいました」。
「自分が美味しいと思ったら自分を信じなさい。と言う言葉です」。
彼が作った料理を、素直に楽しんだ。
これはこれとこれが調和し、これがアクセントとして生きているなどと考えなくてもいい料理である。
しかし肉の過熱も魚の質も完璧で、余計なものがない。
気のおけない仲間と来たい。
家族と来たい。
口うるさくない、グルマンディーズの友人と来たい。
「コスパ」と言う言葉を、考えたことも発言したこともない人と来たい。
美味しいものを食べ、バカ話をし、大いに飲み、笑い、夜を輝かせたい。
そう思わせる店である。
帰り際に彼は言った。
「兄がパティシェなんですけど、いつか彼と二人で店をやりたいんです」。
キャビア・sour cream・ブリニ
北海道カレイのベニエ ハーブのサラダ グリビッシー的ケイパー
三田牛のカルパッチョ 肉の厚さがいい オリーブ油 パルミジャーノ  桃 トマト
海老のパスタ
肉のロティ
トリュフ
カヌレ
あんずの焼き菓子
フィナンシエ