寒い日が続くけど

食べ歩き ,

寒い日が続くけど、春は、もうすぐそこまで来ているんだよ。
キャベツのソースは、そう僕らに囁いて心を温めてくれた。
パリッ。
鱗ごとポワレされた甘鯛を噛めば、皮と鱗の香ばしさが弾け、身が顔を出す。
しとやかな身は、ほろりほろりと崩れて、緩い甘みを舌に沿わせてくる。
そこへ微かにサフランの香りを放つキャベツのソースが、優しく溶け合い、風景をいっそう温める。
一方甘鯛とハグしたキャベツは、トリュフをまとうが、トリュフの量が精妙で、決して出過ぎず、ソースとは違ったキャベツの凛々しさをきわだてる。
甘鯛とソースを食べ、上のキャベツを食べ、再び甘鯛とソースを食べる。
キャベツと甘鯛。
その二つが、有史以前から共に歩んできたような自然がある。
頭を揺さぶる、秘密がある。
魚のソースに野菜を使う。
そのエスプリを永く発揮されてきた、田代シェフ独自の眼力が、僕の胸を打つ。
「ラブランシュ」にて。