今月も、ベテランの巧みと新店での驚きに満ちていた。
フレンチの菊地シェフや比留間シェフ。中国料理の脇屋シェフ。日本料理では、名古屋の野澤さんや大阪の穴見さん、北海道の酒井さん。イタリア料理では沼尻シェフの料理に撃たれた。
一方新店舗では、高山シェフの新感覚のパスタや、「水蓮」での料理の面白さを楽しんだ。
中でも注目したのは、去年6月に開店した、天ぷら「ふく庵」である。
廉価なコースながら、若い職人が、見事な天ぷらを揚げる。
キスは、淡いながらも甘みが存分に引き出され、穴子は、一歩突っ込んだ揚げ具合で、持ち味を存分に楽しむことができる。
中心を半生にとどめた、イカやエビもいい。
そしてなにより衣にブレがない。
揚げた姿が美しく、衣に勢いがありながら、軽くタネを包み込んで、油っ気を感じさせない。
「目指すのは「ソフッ」という衣の食感です。ソが衣でフッがネタですね。絶対濁音にならない軽さです。でも穴子だけは「ザフッ」と、揚げています」。
名店「みかわ」の早乙女さんの下で7年修行したというご主人の中島さんは、天ぷらの理想形をそう語る。
中島さんは、高校一年で中退して料理の道に入り、35の時に「みかわ」に入った。
面接の時に「天ぷら屋は、他の和食店に比べて店数が少ない。だから未来はどうなるかわからない。でも当てたらでかい」と、早乙女さんは言われたという。
その時、少ないからこそチャンスがあるじゃないかと、天ぷら屋を目指す決心をしたという。
「実は元々あまり天ぷらや揚げ物は好きではなかったんです。でもそんな私でも、旦那の天ぷらは感動する。だからこの店のやり方を何としても覚えようと思いました」。
修行時代は、休みの日に若手だけで、練習を重ねた。
早乙女さんも参加されて、丁寧に教えてくれるが、簡単にはいかない。
「諦めようかと何度も思いました。休み時間も休日も揚げているのに、思うようにいかない。上手くいったと思っても、次には最悪になる。なんとか形になったのは、6年過ぎてからです」。
「粉と水と空気が一対一対一。まとわりついている空気を一緒にいれる」。
そう何度も教わったが、まったくイメージがつかめず、最近、ようやく感覚がつかめてきた。
「技術も大切ですが、“気”も重要だと思います。常に油と真剣に向きあう。その時に強気で張ってないと御すことはできない」。
「まだまだです。だから日々考えてやっている。でも自然と体が動いてくれるようになった。ここまでいかないとダメなんでしょうね」。
職人である。
格好良さを求めがちな昨今には珍しい。
久々に職人の志を見た。