大盛りを頼んだのに、敗北感を味わったのは、この店が初めてだった。
ある日「ジャリコ大盛り」と、胸を張った。

大盛りは、500ｇという超級である。
しかし隣のサラリーマン2名は、「横綱」。60代男性も「横綱」（700ｇ強）と、軽い口調で頼んでいる。。
「負けた」。とうなだれ、大盛りで甘んじていた自分のふがいなさを恥じた。
　「ジャポネ」に料理人は、二人いる。

注文が入るとフライパンに、謎の液体を入れ、片手でつかんだ茹で置きスパゲッティを入れて、炒め始める。
素晴らしい。

片手の感覚だけで、量を推し量れるのである。
次に具を入れ、味付けをし、強火にかけたフライパンを、何度も返して、出来上がる。

横綱二人前なら、フライパン総重量は2キロを超えるだろう。
それを一日、百人前は作っているため、上腕二頭筋が隆々としている。
「ジャリコ大盛り」は、皿の上で、湯気をふわりと立て、顔に近づければ、醤油の香りに包まれる。
２．２㎜という太麺が、油にまみれ、てらりと光る。
具は、エビ、肉、しその葉、トマト、椎茸、玉ねぎ、小松菜である。
醤油風味に、昆布茶だろうか、旨味の誘いがあって、フォーク持つ手が止まらない。
アルデンテとは無縁だが、太麺ならではの手応えが、クセになる。
熱々をほおばっては、時折水を飲み、途中からタバスコやチーズをかけて、味の変化を楽しむ。
下品の迫力、イタリア人には理解できない、日本庶民の安住である。
味は決して濃すぎない。

様々なうま味が重なって、罪悪感なく、誰にも気兼ねなく、大量に炭水化物が摂取できる。　
別の日は、悩んだ挙句に、「ヘルシー」の辛め（唐辛子二本）を選んでみた。
具は、小松菜、野沢菜、椎茸、玉葱、カイワレ、唐辛子と、野菜のみだが、まったくもってヘルシーではない。
これにもやはり、タバスコと粉チーズをかけるので、ヘルシーからさらに遠のいていく。
そしてこの店に来て「ヘルシー」はないだろうと、誰も頼んでいないので、ちょっとした優越感を得られるのがいい。