「出来上がるまで15分かかりますのでしばらくお待ち下さい」。
コースの途中でシェフがそう言って、作り始めた。
ラヴィオローネである。
大きなラビオリという意味のヌオーヴァ クッチーナで、本来は卵黄とリコッターをいれるのだという。
シェフは皮つくり始めた。
そして正方形に切り、トリュフのピュレを入れ、卵黄を乗せ、皮をかぶせてセルクルで丸く切った。
「これから地味な作業なんですが、これが重要なんです」。
そう言って、縁を薄く薄く伸ばしていく。
生地に火が入らなければいけないが、卵黄に火が入りすぎてはいけない。
その為重なり合った淵の部分を、薄くして皮の厚さを均一にしなくてはいけないからである。
茹でられたラヴィオローネは、水分を分離させたチーズをかけ、目の前に置かれた。
薄黄色の皮を通して、卵の黄身とトリュフの薄茶が透けている。
真ん中にナイフを入れると、黄身がとろりと流れでた。
皮に守られながら加熱された、黄身が甘い。
粉の微かな甘味とトリュフの香り、チーズのコクが、黄身の甘みを引き立てる。
そうこれは、黄身を主役にしていかにおいしく食べるかという料理なのである。
そのために細心の注意と繊細なテクニックをかけ、手間を費やし完成させる。
黄身は、その労力に応え、最大限の甘みと蕩ける食感を発揮し、我々を魅了する。
ある意味、膨大なる贅沢ともいえよう。
だがそれこそが、卵黄に色艶をあたえるのである。
神楽坂「ドゥエリーニョブリュス」にて