長い間、「もんじゃ焼き」をバカにしていた。
良さはわかるけど、積極的には食べようとは思わなかった。
発展性がない。
同じような具材が限られたお好み焼きと比べても、焼く人によって味が変わると言った深さもない。
あれは子供の食べ物だ。と、偏見に満ちた目で見ていた。
しかしそれを、一人の変態が改革した。
いや、改革というより、もはや発明に近い。
さとうこうじさんという、代々木上原にてポルトガル料理「クリスチアノ」や渋谷でタイ料理「パッポンキッッチン」などを展開する、経営者であり料理人である。
彼の変態ぶりに気づいたのは、「マル・デ・クリスチアノ」という、魚介のポルトガル料理店を始めた時だった。
「牧元さん、こんなものを作ったんですよ」と差し出したのが、缶詰だった。
大金をはたいて、缶詰の機械を購入し、缶詰作りを始めたというのである。
鳥や魚の煮込み料理や、ナポリタンまで缶詰にする。
研究するうちにハマり、今では小さな缶詰工場まで作ってしまった。
「缶詰はロマンなんです」。缶詰作りの動機を聞くと、彼はこう答えた。
ビジネスではなく、ロマン、しかも常人には少し理解しがたいロマンに突き動かされて、発想し、行動する。
堂々たる、愛すべき変態である。
それが今度はもんじゃ焼きだという。ポルトガルでもタイでもなく、もんじゃ焼きだという。
早速出かけて撃たれた。もんじゃ焼きをバカにしていた自分の度量のなさを、深く深く、反省した。
大体において、メニューから料理を想像できない。
「納豆ゴルゴンゴーラもんじゃ」「発酵鶏おかきもんじゃ」「ノルウェイもんじゃ」「夢の国タイランドもんじゃ」「ロシアもんじゃ」。
一体誰がもんじゃ焼に、ロシアやタイ、ノルウェイを参加させようと思い立つのだろう。
変態である。正しい変態である。
しかし歴史上の革新は、こういう変態が起こして来た。
一体誰がもんじゃ焼にも、色気があると想像しただろう。
誰がもんじゃ焼に、カスリメティやパクチーファランを入れると思っただろう。
誰がもんじゃ焼で、ご飯が食べたいと思い、誰がもんじゃ焼によってヴィーニョベルデやホッピーを飲み分けたくなると考えただろう。
誰がもんじゃ焼に、ビーツや熟鮓の飯、ゴルゴンゾーラや発酵羊肉や鳥の内臓が参画することを、夢見たのだろう。
しかしクリスチアノの佐藤さんは、変態だから考えちゃったのですね。
ただ入れるだけではなく、他に入れる具や調味料、食感のアクセントなどを考え抜いているから、何枚食べても飽きがこない。
次々に新しい発見が現れて、喜ばす。
もんじゃだけに、食べるほどに心を溶かすのであります。
しかしこれを真似ようと思っても、誰もできない。
幅広い食材の知識と料理センスによって、キワキワのところで成り立っているからである。