変わらぬもの、変えてしまったもの。

食べ歩き ,

黒柿というか黒茶というか
光が刺した醤油色の透明感があるスープから、白い湯気がゆらりと立ち昇る。

手前には漆黒の海苔の艶。
中ほどには、赤茶に染まった太いシナチク。
向こう側には、縁を赤く彩ったチャーシューが浮かぶ。

周りに葱の小口が散らされて、
醤油色のスープに身をかがめるのは、中太のまっすぐ麺。

つるりとすすれば、柔目ながら、もちりと歯を押し返す。
スープは甘めで、醤油の香りがすきっ腹をくすぐってくる。
変わらない。
会社に入り、原宿の本社に配属されて、最初の昼飯に連れて行かれたのがここだ。
東京ラーメン風でありながら、煮干や鰹節の香りなく
醤油のたくましさとほのかな甘みで成り立つ、独自の味。
その味に、音楽業界人の特性を勝手に投影して、
これから歩む道の厳しさを噛み締めた。

それから32年。
変わらない。
天丼「つる岡」も、定食「くぼた」、「金寿司」、「ミミアン」、「カフェセントラル」「おんでん」、「杉の子」、みんな無くなってしまったけど。

変わらない。
食べログにも載ってない、市井の店。
「夜は何時までやってんの?」
と聞けば、
「もう年だからねえ。八時前には閉めちゃうのよ」。
とおばちゃんが笑った。

今日はもちろん半炒飯セット。
この炒飯というより焼き飯も変わっていて
全体に赤く色づいている。
焼き豚と煮込み豚の二つが使われているようで
肉への味付けの甘みが、米一粒一粒まつわりついて
ほっこりうまい。

本社が表参道に移って7年。
一年に二回だけ、出かける。
おばちゃんに会いに
おばちゃんの味を楽しみに
衰退の一途をたどって、すさみがちな今の音楽業界こそ
かつてのたくましさと甘みの色気が必要だということを
噛み締めるために。

 

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