人生で起こることは、すべてタルトの中にある。

食べ歩き ,

ピエ-ル・エルメの「THE FETISH PARTY」に出かけた。
今回のテーマは「タルト」
どのような新構築に、どのような繊細に、どのような未知に、出会えるのだろう。

「キャラメル」 
口に入れたとたん、キャラメルは濃密な甘みと苦味を膨らませながら、淡雪のように、はかなく溶けていく。
サクッとパートサブレを齧れば、フルール・ド・セルの塩気と、忍ばせたレモンのかすかな酸味が、キャラメルの甘みを際立たせる。
小さき身体に、不変の美意識と緻密な理論を表現した、揺るぎなきアーキテクチャー。
これぞピエール・エルメ。

「サラー」 
マロンと抹茶、パッションフルーツのタルト。
まず栗の温かみのある甘味が訪れて秋が香り、次にパッションの情熱的な酸味が広がって口の中を圧倒する。
そして喉下に落ちかける刹那、ふっと抹茶が香る。
秋のフランス北東部の森から、ミャンマーに飛んで、宇治の里へ至る旅。

「Tarte aux Pommes et a l’orange(芥子の実、リンゴとオレンジのタルト) 
リンゴとオレンジ。
異なる酸味が出会い、陶酔を呼ぶ。
互いの量の見事な計算が呼ぶ、めくるめく共鳴の感動。
その名の通り、互いの個性がぶつかり、実りを充満させたミルフィーユ。

写真奥
「タルトミラベル」 
ソミュール出身であるシェフの、思い出の味だという。
タルトとミラベルのみ。
余分を排除した素朴な味わい。
母の味。
軽いタルトに込められた
ミラベルの大切さ、季節への愛おしさ、母の慈愛が、しみじみと舌に宿る。

「シトロン」 
シトロンはシトロン以上にシトロンらしく。
食べた瞬間に口をすぼめる、レモンの刺激的な酸味。
酸味に寄り添う優しい甘み。
その衝動に我々は、一瞬現実から離れ、飛行する。
そして我に返り、胸を打たれ、上気している自分を発見する。

「Tarte Cafe」 
コーヒーガナッシュとコーヒーシャンティ。
香りと苦味がしっかり利いた、二つの異なる食感が
舌をもてあそぶ。