自由が丘「モンド」

海と森へ向かうパスタ。

食べ歩き ,

命の豊かさをはらみながら、どこまでも澄んだ海と森がいた。
作る寸前に殻を開け、手で裂いて半生に火を通した貝柱には、いやらしい饒舌な味がなく、無垢な甘みだけが膨らんでいる。
そこへ、ニンニクで炒めたヒモの食感とカルボナーラのようにからめた肝のコクが抱き合う。
パスタの艶っぽさに緩む顔を、香菜が少し覚醒させ、また新たに澄んだ海へと向かわせる。
一方森のパスタはどうだろう。
リンゴを練りこんだスパッツェルと鹿のラグーとザワークラウトを、口に入れる。
途端、深山にいた。清廉な空気漂う、森の中に佇んでいた。
リンゴの酸味と甘味、鹿のたくましい滋味、キャベツの酸味が渾然となって、あたりに静けさが訪れる。
ラグー料理特有の強制感がない。
いや、濃いうまみはあるのだが、どこまでも自然な、感謝したくなる味がある。
そこにマッサヴェッキアを流し込んだ。
すると、森はより奥へと招き入れ、静けさを増しながら、妖艶な笑みを浮かべた。
自由が丘「モンド」の夜。