厚さは、テリーヌの正義である。
ドーバーの断崖のごとき絶壁は、食欲を喚起し、肉ではなく、イワシとナスのテリーヌであっても、その厚さゆえの豊満を生む。
高さは、タルタルの誇りである。
低いタルタルは、意気地が無い。
モンブランの如きに、こんもりと盛り上がったタルタルを崩し、口いっぱいに頬張る。
その時にしか、肉のたくましさと甘さは、爆発しない。
高々とそびえたつ勇姿姿は、鞍下肉の誠実である。
ピレーネ山脈の如く、連なる肉を切って、口に運ぶ。
その威勢があってこそ、仔羊の情熱はほとばしる。
やはりこれはそびえ立っていなくてはいけない、そう思うのである。
ちなみに後ろの山は、じゃがいもとブルーチースのグラタンである
ふっくらと膨らんだ雄大な姿は、鳩のパイ包み焼きの公明である。
艶々と輝くソースに、逆さ富士のように映り込む。
切った瞬間の圧倒から、味は始まっている。
その厚みのまま大きな口を開けて、口の中に入れる。
鳩の鉄分と滋養が、パイの香ばしさとソースのうま味と渾然となり、脳幹を刺激する。
生きている実感が体の中から湧き上がって、叫びたくなる。
これぞフランス料理のダイナミズムである。
小伝馬町「トロムペット」