神楽坂 「花」 閉店

品ある甘さに夏が逃げていく。

食べ歩き ,

冷 や し 汁 粉 七百五十円

おれは甘いものは滅多に食べん。甘味屋なんてずいぶん御無沙汰だ。

そういう人にこそ出かけてもらいたい店である。汁粉や白玉の魅力を再発見するために、ぜひ出かけてもらいたい店である。
わたしの場合は、暑くて仕事がはかどらないときや、二日酔いのときなどに、ふらりと出かける。

神楽坂の路地に佇む、静かなシチュエーションもいいし、高齢のご婦人客が、ゆっくりとお汁粉や氷杏子などを楽しんでいる雰囲気もいい。

そしてなにより「冷やし汁粉」が、煮詰まった仕事や、うだっていた体を一時忘れさせてくれるのだ。
その「冷やし汁粉」は、透明なガラスの器に入れて供され、ガラスの蓋を通して小豆色の汁粉に、つやのある五個の白玉が浮かんでいるのが見える。

脇にはガラスの小鉢に入った塩昆布。黒い盆に簀の子が引かれて器がのせられ、傍らに濡れもみじを添えた、涼を呼ぶ演出だ。
まずは白玉を一つ。

創業来埼玉の業者から取り寄せた粉で作っているという白玉は、羽二重のように滑らかで、むっちりねっちりと歯にめり込んで、なんなくとろけていく。
もう一つ食べたくなるのをぐっと我慢して汁粉を一口。

心にくい濃度で、一匙すくって口の中でもてあそんでいると、ゆるい白玉を含んでいるような錯覚に陥る。

やがて喉に消えるが、残されるのはベタッとした甘みでなく、小豆自体の味が生きた、さらりとした、優しい甘みである。
よく汁粉を食べたあとに、残った甘みをお茶で流したくなるが、逆に「花」の汁粉は、お茶を飲んで消してしまわずに、いつまでも余韻を楽しみたくなる、気品のある甘みなのである。

閉店

写真はイメージ