金沢「片折」

内子の艶。

食べ歩き ,

モラトリアムの味がした。
香箱蟹の内子は、外子になる前の未成熟な卵である。
外子やカニ肉にはしっかり火を通し、内子は、やんわりと火を通す。
そのためまだ固まらず、とろんとしている。
まずこの見た目がいけない。
緋色の内子は、艶やかに輝いて、官能をくすぐり、緑がかった路孝茶色のミソは「酒が待っている」と、囁きかける。
内子を舌に乗せてみる。
口内の温度でゆっくり溶けていく。
今まで食べてきた、しっかりと加熱した内子と違い、甘みが柔らかい。
まだ少女の幼い甘みがありながら、奥底に心を焦らす色気がある。
大人になりきらないはかなさが、危うい。
味わいにモラトリアムのじれったさがあって、それがどうにも切なく、酒を恋しくさせるのだった。