元祖ハイボールは、寛容力がある。
元々焼酎のハイボールは、ウイスキーが高価だった時代の代用品でも、ホッピーから転じたものでもない。
「三祐酒場」の初代が、ウィスキーのハイボールという飲み方を知って、当時はまだ匂いがきつかった焼酎の飲み方として、試行錯誤を重ねて生み出したものだという。
焼酎とソーダ、そしてなぞのエキスによる配合は、一子相伝である。
「三祐酒場 八広店」店主も、本店で教わり、そのエキスの作り方は、店で働く奥さんも知らない。
その元祖ハイボールは、実に調子がいい。
ずっと軽く、酒を飲んでいる気配がギリギリあって、和洋中とどんな肴にもあっちまう。
ハムカツの香ばしさに目を細めながら、グビリ。
豚タンシチューのうまさに唸りながら、グビリ。
麻婆豆腐の辛味と痺れに火吹きながら、グビリ。
豚モツの、様々な食感を楽しみながら、グビリ。
お祭り納豆でぐんと気分を上げながら、グビリ。
実に分厚い椎茸のフライを齧りながら、グビリ。
生海苔三杯酢をズルッとすすりながら、グビリ。
いやあ飲み過ぎてしまうなあ。
「一人でやっているのに、こんなたくさん料理を作られて、仕込み大変じゃないでしょう」。
そういうと、「いやあ、うちはあんまり忙しくないんで、楽ですよ」と、照れられた。
こんなにバリエーションが多いのも、きっと「あれもこれも食べてもらいたい」と思う、ご主人の心根なのだろう。
これぞ、大衆酒場の心意気というものだ。
ちなみに、「三祐酒場」は、かつてあった近辺にあった本店も支店も今はない。
「三祐酒場 八広店」でのみ、元祖ハイボールは飲めるのだな。