イタリア料理店でメニューを開くと、僕は真っ先にパスタの項を見る。まずパスタを選び、それから前菜、主菜を選ぼうって算段だ。
中には眺めているだけでウキウキしてくるメニューがある。一つ一つの料理名が食欲をあおり、思いが千々に乱れてしまう店がある。例えば次のようなメニューだ。
手打ちの生パスタが数種類用意されている。旬の食材を生かしたパスタが多い。
斬新な素材使いや組合せに、並々ならぬ意欲や才気が感じられる。郷土色の強い料理が揃っているなど。
ところがランチとなると、こうしたパスタに出会う可能性はぐっと低くなる。それでも僕はあきらめない。
昼といえども個性的なパスタにありつきたいと、懸命に探すのである。そんな欲張り精神で選んだのが今回の三軒だ。
まず最初の一軒は、「タベルネッタ・アグレスト」(閉店)。三種類のランチのうち、一種類がシェフの得意とする生パスタである。
例えばある日は、「タリオリーニ・モルタデッラハムと枝豆のクリームソース」。
黄赤色の中太パスタには、乾麺とは違うしつこりとした噛み締めがいのあるコシがあり、ほのかに小麦粉の甘さが広がる。これぞ生パスタならではの風味で、濃厚なクリームソースと対等に渡り合うのである。
店前の桜並木も心地よく、ぜひお昼に出かけたい一軒だ。
もう一軒は広尾の「ダノイ」(閉店)。昼はカフェのみの営業で気軽にパスタを楽
しむことができる。
魅力的なラインナップは、アンチョビの塩気、ケイパーの酸味、オリーブの渋み、にんにくの香りが融合した「カラブリア風スパゲッティ」や、ベーコンの強い塩気がほろ苦いラディッキオが甘く際立たせる「自家製タリアッテレのベーコンとラディッキオのソース」。
あるいは鶏の優しい滋味に溢れたラグーソースであえた「タリアッテレ」、香ばしい燻香とルーコラの香りが共鳴する「いさきの燻製とルーコラのスパゲッティ」といった具合。どうです。思わずにたついちゃうメニューでしょ。
もっと生パスタを!と望む人には、「アンティキ・サポーリ」移転をおすすめする。昼のパスタランチで選べる五種類のうち三種類が生パスタなのだ。
例えばある日は、タリオリーニ、タリアッテレ、ラザニアといった布陣。
「ほんとは全部生麺にしたいんです」と、語るシェフの熱意にあふれたパスタは、もっちりとしたコシと小麦粉のうまさを感じさせ、魚介や肉の旨味をしっかりと受け止めるのである。
さあこの秋には三軒に出かけ、存分にパスタを噛み締める喜びを分かち合おうじゃありませんか。
パスタは個性的な品揃えをしている店を探し、噛み締める喜びを分かち合え。