個性とはなんだろうか?

日記 ,

個性とはなんだろうか?

僕が個性という言葉を使うときは、独創的な、従来にはないスタイルの料理を表す時が多い。
しかし個性とはどういうものだろうか?
恵比寿「ルコック」比留間シェフの料理を紹介する時に、「個性」という言葉を使う人は少ないだろう。
スペシャリテであるスモークサーモンは、珍しい料理ではない。
しかしいつ食べても心を打たれるのは、どの程度燻製をかけるのか? どれくらいの厚さに切るのが正しいのか? 考えに考え抜かれた美しさが、味に満ちているからである。

このバスク風のソースが乗せられた、白子のソテもそうである。
何気ないようで、ソースの量と味わいの濃度、加熱具合が至高の一点で組み合わさっている。

アマダイの料理は、パネしたアマダイの下に、タコのラグーソースが敷かれている。
アマダイの色気のある甘みを、深い甘みを醸したタコが持ち上げる。

いずれの皿も、食材が静かに呼吸して、舌に囁き、鼻腔に語りかけている。
どうだとばかり自慢するのではなく、
穏やかに皿の上で息づき、その繊細で雑味なき純粋が、静々と細胞に溶け入ってくる。
決して独創的には見えない。
だがこの料理こそが、個性と言うにふさわしいのではないだろうか。