俺は牛肉だぞ

食べ歩き ,

噛んだ瞬間、肉の雄叫びが聞こえた。
「俺は牛肉だぞ」と、舌や鼻腔を打ちつける。
噛むたびに、肉の滋味が膨らんでいく。
肉の勇壮が、鼻息を荒くし、体を上気させる。
こんなハンバーグは食べたことがない。
ご主人松本さんは、ハンバーグであれ、牛を牛として昇華させたいと考え、つなぎを入れない。
玉ねぎやパン粉も入れずに、薄切り肉に塩をし、40分こね続けて、結着させる。
こうして出来上がったのが、このハンバーグである。
肉汁や脂に頼らないハンバーグは、肉の味と香りを叩きつける。
やわらかいながら、肉塊に齧りついているようなコーフンがあって、「肉を喰らっているぞ」と、叫びたい衝動にかられる。
松本さんは言う「筋肉は筋肉らしく食べたい、それが私なりの敬意です」。
二子玉川「花冠」にて。